サロメの乳母の話6 塩野七生
- 作者: 塩野七生
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/03/28
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第6話 「カリグラ帝の馬」
〜カリグラ〜 世界史小事典
12〜41年(在位37〜41)ローマ皇帝。
「兵隊靴の坊や」の意のあだ名で、正しくはガイウス。
37年、登位直後の病疾患以来、半ば狂人の暴君となり、やがて臣下に殺された。
ローマ帝国で悪帝と評される条件は4つある。
の4つである。
「元老院」を無視するようなことがあってはならない。それは帝政という、一見独裁的に皇帝が政治をおこなっていると思われながらも、全く独断では政治判断ができないシステムになっているからである。
「市民」の食と安全は特に説明は要らないと思うが、食料の確保と、治安維持、国防をしっかりしておかなければならない。
「軍団兵」にも気をつかう必要がある。ゲルマン民族が年中行事のように侵入してくるのを実際に防いでいるのは彼らである。
そんな彼らの緊張感を尊重せずに、講和を結び、軍団兵に殺害される皇帝は意外に多い。
後世にはローマ帝国の国教となる「キリスト教」なので、キリスト教徒に不評ということは、それだけで悪帝であったと、未来から糾弾されるわけである。
さて、このカリグラ帝は悪帝と評価されているが、其の理由はなんだったのかというと、上記のどれでもない。
単に精神年齢が足りなかっただけである。
なので、彼が悪帝である理由は、彼が皇帝になったからである。
カリグラによって被害をこうむった人々がいたとしたら、彼を皇帝に推した人々を恨むべきである。
カリグラは第3代目のローマ皇帝で、世襲が皇帝の根拠とされていた時代である。
5代皇帝のネロの後に世襲制が崩壊するが、世襲制には必ず個人の実力と、血統による正当性の軋轢に苦しむことになる宿命が待っている。
このコンセンサスをカリグラとネロが実証してみせたことになる。
何故、馬なのか?このインチタートゥスという名の「馬」が語るのか?
血統という正当性だけで統治者となる男の悲劇である。