石田衣良 / 波のうえの魔術師
変額保険という商品をご存知だろうか。
バブル末期に銀行と生命保険会社が結託して世の資産家達から巧みに資産を食い潰させた事件の主人公である。
この現象に於いては社会問題化し、乗せられて資産をすこぶる搾取された怒れる老人達が大挙金融機関に押し寄せる場面もあったとか。
その頃、不肖私は世間のことなど露知らずのお子様だったので全く知らないが、その事件を背景として扱った小説である。
これら事件についての説明も簡単にされているので、金融機関の悪態に触れることができる。
ただ、日本の資産家とは大土地所有者であることが多く、決して現金をたらふく所有しているわけではない。
加えて当時の相続税が驚くほどのパーセンテージであったということが、予備知識として必要か。
相続税は現金納付が原則なので、キャッシュを持っていない資産家は土地を売って現金化するか、物納制度にあやかることになる。
どちらにしても土地を子供に上手く相続させることが困難なのである。そこで登場するのが……であり、その結果……となり、その反動で……この小説の始まりである。
このような知識は、この社会で生きていく上で、必ず要するものである。知らなければ騙されるし、知っていれば騙される確率がちょっと減る。
特に「自己責任時代」とか、「貯蓄から投資へ」などと叫ばれている現代ならばなおさらである。
「自己責任」が叫ばれると言うことは、今まで他者責任だったという証左であり、「貯蓄から投資へ」と言うことは、「投資よりも貯蓄」が一般人には常識だったわけである。
このように移り変わるのは時代の流れであることは間違いないが、「時代の流れ」だからということで、流されてはいけない。
私は、このような新時流には反対である。
其の理由は追々このブログで説明して行くつもりである。
話が横にそれてしまった。
ところで、この小説のクオリティは、私の琴旋に触れるものではない。
その理由は人物に人間的な色彩を欠いているように思えるからである。
一言で言えば、キザなのが鼻に付くのである。
私は小説に人間臭さを求めてしまうのである。
しかし、社会勉強の一環としてお勧めする。
金融関係を取り扱っているにしては読みやすいので、その点はさすがに投資経験豊かな著者の見識に脱帽する。